Young図形ちょっと入門

Young図形?

四角い箱を左上詰めで,下の行の箱の数が上の行の箱の数以下になるように並べた図形をYoung図形といいます. 例えば,

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Young図形

流儀によっては左下詰めで積み重ねるように並べたり,V字型に並べることもあります. ざっくりしていますが,詳しいことはあとで書くことにします.

この図形は組合せ論の道具なのですが,他の分野でも色々な場面で現れることが知られています. 例えば,対称群の表現論ではYoung図形が主要な役割を果たします. また古典リー環に付随する量子群上の有限次元既約表現の結晶基底はYoung図形を使って実現されます.

そういう色々の応用をここで述べる余裕はありませんが,今後そういった記事を書いたときの参照先としてこの記事を書くことにします.

基本的な参考文献は Sagan のThe Symmetric group [Sagan]です.

分割とYoung図形

ここでは分割からはじめてYoung図形を定義しましょう.

Definition (partition) \lambda = (\lambda_1, \lambda_2, \dots, \lambda_k) (\lambda_i \in \mathbb{N}_{\geq 0}) が次を満たすとき, \lambdan \in \mathbb{N}_{\geq 0}parition (分割) とよび \lambda \vdash n とかく.

  1. \lambda_1 + \cdots + \lambda_k = n
  2. \lambda_i \geq \lambda_{i + 1} \quad \forall i \in \{1, 2, \dots, k-1\}

1.を満たすものを ncomposition と呼ぶ.

また, \lambda = (\lambda_1, \dots, \lambda_k)k\lambda の長さとか高さと呼んだりします. (composition の和訳でしっくりくるものがないので分割も partition とよんでいます)

Example (partition, composition)

  • (3, 2, 1)6 のpartion. また 6 の composition.

  • (4, 3)7 の composition だが partitionでない.

この partition を使ってYoung図形を定義します.

Definition (Young図形) n の partion \lambda = (\lambda_1, \dots, \lambda_k) に対し, i 行目に \lambda_i 個の箱を並べた図形を (shape \lambda の) Young図形 (Young diagram)と呼ぶ.

Example (Young図形)
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partitionとYoung図形

partitionとYoung図形は一対一に対応するので,今後 partition \lambdaをYoung図形と同一視します.

Young盤

Young図形の各箱に数字を書き入れることを考えます.これをYoung盤 (Young tableau) と呼びましょう. この数字の書き入れ方のルールをいくつか考えます. Young図形の議論は,実際には,適当なルールを課したYoung盤を扱うことが多いです.

Definition (標準盤) \lambda \vdash n に次のルールで 1 から n までの自然数を書き入れたものを 標準盤 (standard tableau) という.

  1. 行は(左から右に見て)狭義増加列,
  2. 列は(上から下に見て)狭義増加列.

Example (標準盤)
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左は標準盤, 右はダメな例

上の定義で,書き入れる数が\{ 1,2, \dots, n \}とは限らないとき (単に異なる自然数で1. 2.を満たすように書き入れられているとき) [Sagan]では partial tableau と呼んでいます. またここで標準盤の定義を少し弱めた半標準盤を定義しておきます.

Definition (半標準盤) \lambda = (\lambda_1, \ldots, \lambda_k)\mu = (\mu_1, \dots, \mu_l) をそれぞれ n の partition と composition とする. shape \lambda のYoung図形に \mu_i 個の i を書き入れることを考える. このとき,次のルールで数字を書き入れた Young盤を shape \lambda weight \mu半標準盤 (semistandard tableau) と呼ぶ.

  1. 行は(左から右に見て)広義増加列,
  2. 列は(上から下に見て)狭義増加列.

Example (標準盤) \lambda = (3, 2), \mu = (2, 2, 1) とする.このとき shape (3, 2)\mu_1 = 2 個の 1, \mu_2 = 2 個の 2, \mu_3 = 1 個の 3を, 行は広義増加列,列は狭義増加列になるように書き入れると半標準盤.例えば
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$\lambda = (3, 2), \mu = (2, 2, 1)$

(半標準盤が基本的なのでこれを単にYoung盤と呼ぶ人もいますが,私は半標準盤でない盤も使うことがあるので区別します.)

これで基本的なことが定義できました. 最後にここまでの話で述べることができる応用を書いておきます.

ちょっと応用

Theorem shape \lambdaの標準盤の数を f^{\lambda}と書く. このとき次が成り立つ.

\begin{align}
     n! = \sum_{\lambda \vdash n} {(f^{\lambda})}^2
\end{align}

これは標準盤の数を数えると n! になるという少し不思議な等式です.

実は標準盤の数は対称群の既約表現の次元と解釈できることが知られています. ここから表現論的には,この等式はある表現の既約分解から理解できます.

一方で組合せ論的には,ロビンソン-シェンステッド対応というものを通して理解することができます. この対応は組合せ論や対称群の表現論以外にも色々なところに現れる重要な対応で, 面白い話題がたくさんあります.

またその一方で上の定理からは f^{\lambda} を計算する方法はわかりません.やってみるとわかりますが,手で計算しようとするとすぐに大変になります.これに関してはフックの公式というものが知られています.

参考文献とコメント

この記事で主に参考にしたのは

[Sagan] The Symmetric Group: Representations, Combinatorial Algorithms, and Symmetric Functions (Graduate Texts in Mathematics)

です. 古典的な対称群の表現論やそれにまつわる組合せ論の話がわかりやすく書かれています.また有限群の表現論の教科書としても具体例を触りながら学べる良い本だと思います.

また最近Young図形に関する話題が詰まった本の邦訳がでました.

ヤング・タブロー: 表現論と幾何への応用

私は原著を読んだだけで(通読もしていません) 邦訳は目を通しただけですが,特に一章にここにあげたような話題が非常によくまとまっています. それ以外の章は他の分野への面白い応用が述べられていてますが,前提知識がないと厳しいかもしれません.しかし邦訳には表現論の付録がつけられたようです.

その他の日本語で読める文献として

ヤング図形のはなし (日評数学選書)

があります.この本は上の定理とロビンソン-シェンステッド対応を中心に色々な話題が初等的に書かれた本です.有限群の表現論の入門としても表現を手作りしている感じがあって好きなのですが,残念ながらアマゾンでは絶版のようです.